犬井歳三の犀氣主義より

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| | 16:08 |
「短編小説」「シク」
自画像のような小説。
そんな言葉が頭から離れなくて、自分でも書いてみました。
まだまだ、成長したいので、アグレッシブな批評または感想、よろしくお願いします。


『シク』

 精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる。彼女がぼくにそう言ってきたのは、付き合ってから一ヶ月経ってからのことだ。だから、ぼくはその時なんて答えればいいのか分からなかったけど、いちおう、卵白なんて飲んだことあるの? って答えた。卵白なんて飲んだことあるの? 俺はないよ。だって卵嫌いだし。マズいし。
 ぼくと彼女とは、ぼくの期末試験が終わってから三日後に付き合い始めた。付き合ってから最初にしたことは手をつないだことで、付き合って始めて見た映画は《気狂いピエロ》で、付き合って始めて行ったカラオケで始めて歌った曲は《Like a Angel》で、そこで始めて聞いた曲は《We Are》で、付き合って始めて行った展覧会は《モディリアーニ展》で、そこでぼくは気分が悪くなって、付き合って始めて彼女がくれたものはギャルソンの香水で、付き合って始めてぼくがあげたものはマドンナのアルバム。あと、電話はいつも彼女から掛けてきた。ぼくはたまにそれを待っていたりもした。だけど、そんな日に限って彼女からの電話はこない。それでよかった。
 ぼくはなんとなく言葉の足りない子だった。人の悪口は誰よりも上手く言えるのに、いざ自分のことについて語らなきゃいけなくなると急に無口になる。だから、みんなはぼくをただの未熟者だと思っていた。ぼくはそれもしょうがないことだと考えていた。だから、なんとなく自分は言葉の足りない子なんだなと思った。だいたいその場に合った台詞って後になってから出てくるものだよね。彼女はぼくにそう言ってくれた。この台詞はそうじゃないみたいだけど。彼女はぼくにそう言った。
 ぼくは彼女にぼくが中学生の時に書いた日記を見せてあげた。彼女はぼくの椅子に座りながら、文章書くの上手くなったね、と言った。ぼくは床に座りながら、今よりかはね、と答えた。今よりかはね、って、ぼくは彼女に今のぼくが書いている日記を見せたことがない。いや、彼女は最近ぼくが書いた小説を読んでくれた。日記は小説じゃない。ぼくは急に、彼女がこの日記をふとしたことからただの小説じゃないのかと思わないか不安になった。小説を読んでいる気分で日記を読んではいないか不安になった。ぼくは言った。
「ちゃんと伝えたいことはあるんだ。だけど、言葉にはならないんだ。文字にすることは出来るんだけど」
 彼女は答えた。
「知ってる」

 ぼくは小説を書くとき、江國香織の文体を参考にするんだ。彼女にそう言った。確かに江國香織は文章書くの上手いね。彼女はそう言った。
「江國香織読んだことあるの?」
「高校生のとき」
「何を読んだの?」
「あなたが読んだことのないやつ」
「なんでそれが分かるの?」
「本棚に無かったから」
「ぼくの本棚見たの?」
「うん。斉藤孝の本が多かったね。あと、中原中也の詩集もあった」
「前に買ったんだ。昔は中原中也が好きだったから。多分」
「わたしも好きよ」
 昔は尾崎豊が好きだったんだ。毎日、CDを聞いてたぐらい。芥川龍之介とか太宰治のまねをして小説を書いてきてたんだけど、ある時から急にぼくの小説の主人公は不良になったんだ。ぼくが普段は出来ない、窓ガラスを割ったり、バイクを盗んだり、とかそういうことをその主人公にやらせてたんだ。その小説を読んだら彼女はなんて言うかな? 文章書くの上手くなったね。いや、そんなことを聞きたいんじゃない。ちゃんと伝えたいことはあるんだ。ちゃんとやりたいことはあったんだ。
 「精子ってね、飲むと喉がかれるの」
 精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる。という言葉を聞いてしばらく経ってからのことだ。別にそんな言葉聞きたいわけじゃない。だけど、彼女はぼくと違って、その場に合った台詞をすぐに言うことが出来る。だからぼくは彼女と付き合ってるんだ。だけど、そんな言葉なんて聞きたくなかった。

 「髪、伸びたね」
「うん。伸ばしてるんだ」
「知ってる。でも。伸びたね」
「伸ばしていい?」
「……」
「ねえ、伸ばしていい? ねえ」
「……ごめん。なんて言っていいのか分からない」
 なにも言ってほしくなかった。たとえなんて言われようが、ぼくは髪を伸ばし続けるだろう。
「髪、切るときは教えてね。切ってあげるから」
「いいよ。従姉に切ってもらう」
「わたしが切るよ」
 じゃあ、勝手に切れば? きっと、こういう台詞をその場に合った台詞って言うんだろう。言ってもよかったけど、ぼくはなぜかそれを言わなかった。そういうところも含めて、ぼくはきっと言葉が足りないんだろう。ねえ?
 昔はね、小学生の時はね、下水道にワニが住んでいると思ってたんだ。だけど全然怖くなかったんだ。だから怖かったんだ。きっと、こんなにワニと近くにい暮らしているのに、少しも怖がらない自分が怖かったんだと思う。ごめん、自分でもなに言ってるんだか分からない。ちゃんと伝えたいことはあるのに。伝わらない。分かってくれない。きっと、ぼくが伝えたいことはこんなんじゃない。ぼくが伝えたいことがちゃんと伝わるような場所を作ってくれないかな? ねえ?
「精子ってね、飲むと喉がかれるの。だから、ほんとは飲みたくないの」
 じゃあ、飲まなくていいよ。そんな言葉聞きたくないから。
「精子ってね、飲むと喉がかれるの」
 喉がかれてもいいから飲めよ。自分の精子なんて見たくもない。
「精子ってね、飲むと喉がかれるの」
 吐けよ。その口でキスすんだろ? そんなのこっちがやだよ。
「精子ってね、飲むと喉がかれるの」
 じゃあ、俺の口の中に入れろ。
「精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる」
「精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる?」
「精子ってね、飲むと喉がかれるの」
 この口でお前とキスをする。
 この手でお前と手をつなぐ。
「精子ってさ、飲むと喉がかれるの?」
 いいから、早く口を開けろよ。
「精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる」
「卵白なんて飲んだことあるの?」
「飲むと喉がかれるの」
 そんなかれた声で《We Are》なんて歌うなよ。
 そんな汚い手で俺に触るなよ。
 そんなかれた声で《Like a Angel》なんて歌わないで。
「卵白を飲む感覚って、精子を飲むのと似てる」
「精子なんて飲んだことあるの? 俺はないよ。だって、マズいし」
「精子ってね、飲むと喉がかれるの」
「だから、ほんとは飲みたくないの」
「だから、ほんとは知りたくないの」
 知りたくない?
「だから、ほんとは飲みたくないの」
 違う。さっきの続きが知りたい。なにを知りたくないんだ?
「あなたの小説ってね、読むと枯れるの。だから、ほんとは読みたくないの」
「もうこれ以上、あなたを伸ばす必要なんてなくなったの」
知りたくない。やめて。
「わたしはあなたを知りたくない」
 そんな。
「精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる?」
 ああ、似てるよ。ひどい味だ。
「うん。知ってる」
 なにから聞けばいい? どうしてこうなった。どこから間違った? なにが悪かった? ああ、言葉が足りない。台詞が出てこない。
「それでいいのよ。その台詞がこの場に一番、相応しいわ」
 そうなのか? そうだとしたら、そんなの残酷すぎる。ねえ?

 気付いたら深夜の二時になっていた。ぼくは床の上に寝ていた。ぼくの物語は終わらないだろう。ぼくはこの小説の続きをいずれは書くだろう。立ち上がる。一階のリビングへと階段を下る。リビングは真っ暗だ。誰もいない。台所へと向かい、冷蔵庫を開ける。オレンジ色の光が顔を照らす。中から卵を取り出した。冷蔵庫を閉める。食器棚からコップを取り出す。そのコップの上で卵を割って、きれいに卵白だけをコップの中へと落としていく。卵黄は捨てる。コップを力強く握った。いや、そうでもないか。コップを口へと近付けていく。集中する。生温い卵白がのどを流れていく。不思議な感覚だ。そのままその卵白は体の中へと落ちていった。これは不思議な感覚だ。
「もしこれが精子だとしたら、病み付きになりそうだ」
「でしょ?」
「ああ」
「精子を飲む感覚って、卵白を飲むのと似てる」
| 自作小説 | 01:27 | トラックバック:0 | コメント:2
「短編小説」「無題」
書いてしまった…
明後日から中間試験が始まるというのに
この作品は15分ぐらいで書いたやつです。この作品の超スピードには自分でもふいた
とりあえず
まだまだ、成長したいので、アグレッシブな批評または感想、よろしくお願いします。


『無題』
 ベッドに囲まれたベッドの上に寝ていた。
Tシャツの袖から出ている私の腕は黒かった。
動かない。いや、動いた。いや、誰かに持ち上げられたのだ。
 私は目を開ける。
ベッドの上には遥が立っていた。
それから、遥は今にも泣き出しそうな顔で私の中へとゆっくり倒れてくる。
覆いかぶさってくる。いや、私一人が抱きしめている。
遥の前髪が私のまぶたの裏、眼球の後ろへと入ってくる。
私は私の顔全体に鋭利な不都合さを感じながらも、遥の唇に私の鼻の先を擦り付けた。
 目を開ける。
気付けば、私は私の唇で辰夫の鼻の先を優しく愛撫している。
顔を少しだけ下の方へ向ける。
辰夫の鼻の先が濡れているのが見える。
口のどこからか出てきた舌を、私は辰夫の口の中へとゆっくり入れていく。
舌の先が何か生温いものに触れて驚いた私は、急いでその舌を元にあった場所へと戻す。
チュパッという鋭利な音が聞こえる。
いや、私が鳴らしたのだ。いや、私が鳴らす。私が濡らす。
舌を辰夫の口の中へと入れる。そして抜く。入れる。抜く。
 目を開ける。
腕が後ろへと引っ張られていく。
無理矢理、立たされている。
たけるの鋭利な生殖器の先を私の中に感じる。
私はたけるの顔が見たい。
たけるが鋭利な快楽の終焉へと向上していく姿を見たい。
たけるが私の中へとそれを入れる。そして抜く。入れる。抜く。
 目を開ける。
その瞬間、遥の前髪が私のまぶたの裏、眼球の後ろから抜けていった。
その瞬間、遥はやるせないような、疲れたような、気持ち良かったような、虚ろな目で私の顔を見る。
その瞬間、私の目からは白くはない、赤いドロドロとした液体がふき出る。
その瞬間、広島では原子爆弾により二十万人もの人々が亡くなった。
その瞬間、私の下半身は痙攣する。
 目を瞑る。
向こうから巨大な黒い点がやってくる。
どんどん近付いてくる。
その鋭利な黒い点が私に突き刺さった瞬間、私の友人の冴子とたけるはほぼ同時に己の性の絶頂へと達した。
向こうから巨大な白い点がやってくる。
 目を開ける。
隣のベッドに寝ていた辰夫を起こす。
遥は起き上がるとやるせないような、疲れたような、気持ちの悪いような、不機嫌な顔で私を見る。
違った。辰夫のベッドは反対側のベッドだった。
左隣のベッドを足で蹴る。
 目を開ける。
ベッドがとつぜん揺れたので驚いた。
いや、ベッドではない。私は下半身の痙攣したカオリの上で寝ていた。
カオリは起き上がると口の中から白いドロドロとした液体を吐き出す。
隣のベッドで寝ていた冴子が顔面の剥がれ落ちた顔を上へと向けたまま、はいつくばうように誰かのベッドの上へとやってくる。
誰かが誰かのベッドの上に立ち上がる。
誰かが私の黒い腕を持ち上げた。
| 自作小説 | 03:23 | トラックバック:0 | コメント:1
「短編小説」「TRUST LUST LAST」
あるお方から更新するように迫られたので、更新しました
いや、自分は更新しなさすぎたのか? そもそも更新ってなんだ
更新料ってのはブログを更新したくなるコショウみたいなものなのか?
それは香辛料か

この前、ってか、一週間前ぐらいに書いた短編
エロいよ これは
最後は「愛している(――必要だ!くびったけ!――)」って言いたかっただけ
最近言ってないんだよな
叫んでるけど
身内にしか分からないようなネタはさておき
まだまだ、成長したいので、アグレッシブな批評または感想、よろしくお願いします。


『TRUST LUST LAST』

 背中を起こす。そのまま、ぐるっとひっくり返る。手を伸ばす。何か大事なものを忘れている。顔を上げる。ゆっくりと目を瞑る。皮膚が汚れていく。手を伸ばす。上を見る。強く握る。
 気怠さは見せず、弱く。不快な顔を濁して、弱く。そのままいっきに声を上げる。後ろを向く。腰を上げる。手を握られる。気付けば握り返している。強く。

 煙草をくれないか。
「わたしらしくあって」
わたしらしさって?
「ひたすら、わたしらしく」
それは、無理よ。わたしがわたしの名前を背負って生きていること自体、わたしらしくなんてないのだから。
「せめて、わたしの望むように」
今さら何を望む。
「わたしの思った通りに動いて」
じゃあ、全てをわたしの感じた通りに。
「それは出来ない」
わたしも出来ない。
「客が来るわ」
怖がることはない。いつも犠牲はわたしが払う。
「わたしも苦痛だわ」
いつもそうやってきた。だから、こうやってわかれた。わたしは何もしなくていい。わたしはひたすら働く。

 I’m digging in the rain.
素手で掴んで、素手で吐き出す。皮膚が削れていく。無我夢中で、ただただ突く。地を突く。だから、血を見る。
命の切れかけた犬のように。探す。幸せを探す。奪われた。失った。無くなった。そうだ、わたしはいつも犬だった。
 血が溶けていく。穴に血が飛び散る。これはいつも感じていた。だけど初めて見る。指の先から血が滴る。指が溶けていく。指が濡れている。わたしは何を犯した?
 血が土を犯していく。血が黒くなる。もう苦痛は感じない。地を突く。幸せを探す。

 I was running in the rain.
 宿から飛び出す。飛び出したわたしはどこにも入らない。外へ。こんな客はいないだろう。そのままいっきに声を上げる。後ろを向く。追われている。だからもっと速く。もっと速く動いて、わたし。
 幸せを探しに行こう。幸せを。在りかは知っている。

 I’m here. But I’m there.
I’m not there. So I don’t know me.
 両親はわたしが六歳のときに死んだ。それから祖父に引き取られた。彼はわたしが十一歳のときに死んだ。それから、色々あった。もう忘れてしまったよ。今はここにいる。あの宿から逃げてきた。そうだ。小さい頃のわたしの夢を知っている? ずっと昔に捨てた夢よ。

 I’m digging in the rain.
 穴に雨が流れてくる。血が雨に汚されていく。皮膚が削れていく。無我夢中で、ただただ突く。地を突く。もうすべて見てきた。怖がることはない。
 幸せが埋まっている。この墓石の前。あの頃の。もう忘れちゃったよ。わたしの幸せ。その色は? その味は? 温かいの? 今はもう温かければいいや。だって寒いんだもん。
 こんな血は初めて見る。熱い血。わたしを溶かしていく。

 I will go to sky to lose my mind. No heaven. It’s lonely sky.
I will go to sky to lose my body. It’s no heaven. It’s lonely sky.
I go to sky. I wanted to be movie star.
I go to sky. I wanted to be star.
I go to sky.

 「もう止めよう」
なんで?
「むだだ」
どうして? わたしは幸せを見つけるのよ。あの幸せを。
「もう気付いているでしょ? その幸せは死んだ」
 体が動かなくなる。そのうち心も死ぬだろう。穴を掘っていた。墓石の前で。わたしは今に死ぬだろう。もともと体は弱かった。
 最後に何か話して。
「九歳のときに出会った少年、セスをわたしは好きだったのかな?」
好きだったの?
「わからない。あなたは?」
わたし? わたしは。どうだったかしら。わからない。あなたは知っていると思っていた。
「わたしが?」
本当はいつもわたしより早く気付いていたから。何もかも。
「違うわ。それはあなたよ」
いいえ。あなたよ。
「愛している」
わたしも、あなたを、愛している。
「いつから気付いてた?」
ずっと昔から。あなたがあなたになる前から。
「愛している」
わたしも、愛している。
「わたしがあなたになる前から」
あなたがわたしになる前から。
「愛している」
わたしも。
「寒いわ」
温めてあげる。
「ありがとう。愛している」
| 自作小説 | 17:34 | トラックバック:0 | コメント:3
「短編小説」「尊厳と淫らなメロディー」
ひさしぶりに、自分らしい小説が書けましたよ!
自分で読み返してても、笑えてくる。これはギャグ小説だ
まともに理解しようとしたらつぶれるんで、これは風邪薬の飲みすぎで頭の狂った人が書いた小説なんだ、っということを頭に入れつつ読んでいってください
まだまだ、成長したいので、アグレッシブな批評または感想、よろしくお願いします。


『尊厳と淫らなメロディー』
 朝から不愉快な気分だ。大声を出したせいで喉がかれている。わたしは以前にも大声を出したことがある。部屋中に透きとおるような力強く響きのよい大声だった。その大声と今日の大声との違いは、声量ではなく、明らかに聞こえの悪さだろう。どちらの大声も怒りと憎しみという根源を持つ点では共通している。その感情の矛先が自身の尊敬している人に対してであると、心にくるものがあるのだろうが、そんな人間にわたしはそのような思いを抱くことが無いだろう。師というものは、本当に必要なところにはおらず、案外どうでもいいようなところにいるものだ。

 目と親指というのは、思考の気高さと通ずるものがある。目が痛いと親指の都合も悪く、目が良いと親指も良く動く。親指は逆に曲げられることで、自身の思考の後退を憶える。信じられるだろうか。今、わたしは自身の親指を逆に曲げようとしたのだ。折れてもよくて、わたしは自分が許せなくなったのと同時にわたしの置かれているこの絶対的にいいかげんで、興味もなく、この上なく、異常に非常な近代以前の都市的空間に嫌気をさし、許されるならその一人を殺してまでやりたいと思っている。なぜなら、その嫌気をさす指は、親指ではないのだから。
 上へとよこすためのスイッチの調子が悪い。スイッチとはまさに便利なもののように思えて、実は賢者にですら扱いにくいものである。そのスイッチがあるがこそ、人はそれを押そうと思うが、そのスイッチがそこになければ人は何を思うだろう。もし、そのスイッチによって状況の変わる必然性をそれが備えていたとしたら、人は何を思うだろう。病院とはスイッチ一つで四方へと壁が倒れていく存在でなければならない。医師は常に裸体で病人を迎えなければならない。今、この部屋に流れている《Atom heart mother》は単純な曲である。終わる頃にはそれらの全てが明らかとなってくれる。
 壁にはさみを突き刺すという行為はなんと快楽を招く儀式であろう。壁に開いた穴は娼婦の鼻の穴を連想させるだろう。昔、友人と娼婦の首はかたいという結論に達したことがある。その結論がその場にふさわしく出たものか、マッチもないような暗闇から紫煙のごとく舞い上がったものかは憶えていないが、椅子の座り方を常に考えているような気取った記憶には縛られる必要も何もないということを今証明してみよう。太鼓の鳴る中、人が叫んだことがあるだろうか。太鼓の鳴るという字は、「鳴る」と「生る」ではどちらがその意味に相応しいだろうか。もしろん、わたしが先に鳴るという文字を選んだのは紛れも無い偶然であるが、いやその場にあった文字を選ぶという行為自体、偶然と偶然とが接線のように鋭く交わり、メロディアスな痙攣を生み出しわたしの頭の中を支配する空虚な自然の成り行きでしかないのだ。もちろん、生るという文字は国語的には間違っているのだが、太鼓の音から考えると赤子の出産をも連想させるその爆発するような響きには、生むという言葉が何よりも正しいように思える。もし、わたしにこの言語の文法の律を変えることが許されるなら、わたしは生るよりも死ぬという文字を選ぶだろう。音は常に死んだ状態で人の耳に入ってくる。このシド・バレットの悲しい歌声はわたしたちの亀に水芸のようなリアリティーの豪快さを誘惑しておきながら、期待を裏切るということでしかわたしたちを納得させられないのだ。

 友人のジャンは自分の妻を従兄のロードに寝取られてしまう。ロードは死を望んでいたのにもかかわらず、自らその死に対し恐怖を覚えるような、この世の最も通俗的な快感に溺れてしまったのだ。溺れることによって女は強くなると友人は言ったが、溺れるのと酔うということとはまったく違うものである。溺れる時に人は自身の外に水を感じ、酔う時に人は自身の中に水を感じるのだ。自身の文章に酔うような気高さから、わたしはその美しさをつくづく時間をも超越するようなものとしようと心がけるのだが、その誓いは何の償いになるのだろうと不思議になることがある。この場合のなるは生るではない。時間とはそもそも憂鬱なものである。憂鬱とは水である。そう。人は常に自身に誇りを憶えるとき、どこかが憂鬱と慣れ合っていることとなる。その水がわたしの喉をかれさせたのだ!

 親指には不思議な力がやどっている。辞典を親指で開ける人は少ないだろう。わたしは常に何かから刺激を受けたいと思っているからこそ、人からは未熟者のように見え、落ち着かない様子の消しゴムにまで思われるのだ。消しゴムはこの世の何よりもあなたのそのノートを汚すだろう。文字を消した後に残るその汚れは、フロイトの夢を消しかけ、わたしの目からは見えない、煙の舞う暗闇から朝が来るのを今か今かと待ち望んでいる。それは願っているとも思える。ジャンはロードの死体の前に立ち尽くし、泣いていた。地平線とララバイの間に沈みかけたオレンジ色の太陽は、少女の手の上で溶けていくバニラアイスのようだ。鳥たちの鳴き声に耳をすませば、いつの日か父の肩の上で聞いた歪んだ口笛が風の中から聞こえ、聞き上手な鳥たちはこの世の端の暗闇へと姿を消す。神さまに会ったら何をはじめに説明すればいいだろう? どんなにひどいことを言われ続けようと大切な人のために生きていきたいです。誰だってやっぱり自分のためだけには生きていけないって。悲しく流れ落ちる記憶と刹那。ジャンは太陽に向かい両手を広げた。大地が優しかったのは彼を優しく包み込んであげたから。その地に映ったジャンの影はロードへの十字架となった。
| 自作小説 | 22:47 | トラックバック:0 | コメント:3
『英国美術の現代史:ターナー賞の歩み展』に行ってきた
『英国美術の現代史:ターナー賞の歩み展』に行ってきた
場所は六本木にある「森美術館」

自分はこのターナー賞のことをよく知らなかったのですが、どうやらこの賞は1984年に設けられ今では現代美術界で最も権威ある賞のひとつと言われるまでになった、イギリスを代表する芸術賞だのこと
今回のこの展覧会は、そのターナー賞の歴代受賞者の作品を一箇所にまとめ展示することで、イギリス現代美術の流れを感じながら、世界のアート作品にふれてみよう! という目的で開かれました
実際、この賞は差別の多いイギリスでは珍しく、受賞者の中には黒人や女性もいたりと、そういうところはフリーダム――差別となる対象を排除したことで、広い世界へ観察の目が開かれる――な賞なのだと思いました

本展には、「ニュー・ブリティッシュ・スカルプチュア」や「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト」といった様々な異なる思想の元に創作された作品が多く、日本でのこういうかたちでの展示は非常に珍しいものだということも分かります
やっぱり、歴史ある賞はちがうなー

この何もない空間そのものが芸術なんだ!
これは一見、牛の体を真っ二つに切断してホルマリン付けにしたただの標本だが、博物館ではなく美術館にあることで、これは芸術作品になるんだ!
っといったぐあいのファンキーな作品が目立ちましたが、それがやけに説得力ある…

なぜなら、それは芸術だから

この美術館を出ると、後に見る全てのものが芸術作品に見える…
廊下の両端にあるくもりガラスが芸術っぽく
傘をさす人の影が芸術っぽく
展望台から見る東京の夜景が芸術っぽく

こういう展覧会にはまた行ってみたいですね
なんたって創作意欲がわきますよ!

今日は徹夜でもして小説を書いてみようかな

『英国美術の現代史:ターナー賞の歩み展』のURL
http://www.mori.art.museum/contents/history/index.html
| 美術館の感想 | 23:55 | トラックバック:0 | コメント:0
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プロフィール

Author:犬井歳三
デヴィッド・リンチ
ピンク・フロイド
アンドレ・ブルトン
が好きな高校生

小説書いたり、映画撮るの手伝ったり、色々な創作をしています。
気軽にコメントしていただけると嬉しいです。

自主制作映画集団レボリューションズに参加。
http://aph.jp/?32229

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